こども園で育つ「協調性」と「思いやり」とは何か?
こども園で育つ「協調性」と「思いやり」とは何か、なぜこども園という場がそれらを育てやすいのか、どのような具体的な経験・援助で伸びるのか、そして根拠は何かを順に説明します。
用語の整理
– 協調性とは
他者と目的や活動を共有し、役割ややり方をすり合わせながら、衝動を調整して一緒に物事を進める力です。
含まれる下位要素には、順番を待つ、ルールを守る、相手の意図を汲む、ことばで交渉する、役割分担を決め直す、葛藤を解決する、集団のリズムに合わせて自己調整する、といった技能が含まれます。
単なる「従う」ではなく、自分も相手も生かす「調整」の力です。
思いやりとは
相手の気持ちや立場を感じ取り(情動的共感)、状況や理由を推し量り(認知的共感/視点取得)、助ける・分ける・慰める・謝るなどの向社会的行動として表す力です。
未就学児では、「泣いている友だちにティッシュを渡す」「順番を譲る」「困っている子に先生を呼ぶ」などが典型です。
なぜ「こども園」で育つのか(発達的・制度的視点)
– 発達の敏感期に、濃密な仲間関係が繰り返される
3~5歳は、感情コントロールや視点取得、実行機能(待つ・切り替える・計画する)が大きく伸びる時期です。
毎日同じ仲間と遊び・食事・片付け・行事を共にするこども園は、協調性と思いやりの実地訓練が自然に積み重なる環境です。
遊び中心の学び(主体的・対話的で深い学び)
こども園の教育・保育では、自由遊びや協同的な活動が核で、子どもが自分でやりたいことを友だちと調整しながら進めます。
遊びはルールや役割の交渉の宝庫で、協調性と思いやりが最もよく表れ、鍛えられます。
安心基地としての保育者と生活のリズム
愛着に根ざした「安心できる大人」と予測可能な生活リズムが、情動調整の土台になります。
落ち着いた心の状態があるほど、他者に心を向ける余裕が生まれます。
異年齢の相互作用
認定こども園では異年齢交流や縦割り保育が取り入れられることが多く、年上は思いやりやリーダーシップを発揮し、年下は援助される体験を通じて感謝や信頼を学びます。
具体的にどう育つか(場面とプロセス)
– ごっこ遊び(ままごと・ヒーローごっこ・店屋さんごっこ)
役割決め・ルール作り・世界観の共有が必要です。
役割の取り合いが起きた時、保育者が「どんな役が必要かな」「交代制にする?」と問い返し、子ども同士の合意形成を支えます。
視点取得と交渉力が磨かれます。
協同制作・運動遊び(大きな積み木で街を作る、パラバルーン)
物理的に力を合わせる活動です。
「三人で持つと崩れない」「合図で引く」など、相手に合わせる身体的協調が養われます。
当番活動・係活動(配膳、植物の水やり、読み聞かせの準備)
「みんなのために役立つ」経験が、責任感と向社会性を生みます。
遅れた友だちをさりげなく手伝うなどの思いやり行動が日常化します。
自然体験・探究(ミミズの観察、畑、散歩)
生き物を大切に扱うことを通じて、痛みや命への感受性が育ち、他者への優しさに一般化されます。
共同での世話は協調性も鍛えます.
けんか・トラブルの解決
衝突は学びのチャンスです。
保育者が「事実を整理」「気持ちを言語化」「解決案の共同生成」「合意の確認」のステップで仲裁し、次第に子ども自身が同様の手続きを使えるようになります。
絵本・わらべうた・ごっこでの感情理解
登場人物の気持ちを推測したり、別結末を考えたりする対話は、認知的共感の練習になります。
保育者の専門的なかかわり
– 環境構成
小集団で関わりやすいコーナー保育、分かりやすい道具配置、見通しを持てる日課。
物理環境が衝突を減らし、協働を促します。
モデリングとコーチング
保育者自身が丁寧な言葉、順番待ち、謝罪・感謝を示し、子どもの行動を肯定的に具体語で承認します(例 「順番を待てたね」「困っているAくんに静かに声をかけられたね」)。
社会的学習が進みます。
感情の言語化と共感的応答
「悔しかったね」「Aくんは驚いたのかもね」と気持ちに名前を与え、落ち着き方を一緒に探る(共調整)。
自己調整の基盤になり、他者感情への気づきも高まります。
ルールの共同構築と可視化
「みんなが気持ちよく遊べるための約束」を子どもと作り、絵や写真で見える化。
合意されたルールは内面化されやすく、協調の基準になります。
インクルーシブな配慮
発達特性や言語背景に応じた視覚支援、段階的要求、ピア・バディの活用。
多様性の中での協調と共感を経験できます。
観察・記録・ふりかえり
プロセスの記録(ポートフォリオ、連絡帳、写真掲示)で子ども自身と保護者が成長を自覚。
振り返りが次の協同を促します。
どのように評価・見取りするか(めざす姿との対応)
国内の教育・保育指針では到達目標の数値化ではなく「めざす姿」を重視します。
例えば幼児期の終わりまでに育ってほしい姿には、協同性、道徳性の芽生え、規範意識の芽生え、人とかかわる力、感性と表現などが示されています。
見取りの観点例
– 協調性
自分の願いを伝えつつ相手の意見を聞ける/役割分担の交渉ができる/集団の決まりを理解し守ろうとする/困難時に助けを求めたり援助を申し出たりできる。
– 思いやり
相手の表情や状況から気持ちを推測する/泣いている・困っている人に近づき、慰める・助ける・知らせるなど行動に移す/公平さや順番を大切にする/自分の行為が相手に与えた影響に気づき、必要に応じて謝る・修正する。
家庭との連携でさらに伸ばすポイント
– 感情の言葉を増やす(うれしい・悔しい・心配・ほっとした等)
– 家事の小さな役割を担ってもらい「助かった」を伝える
– きょうの出来事を事実→気持ち→次の工夫の順で聞く
– 兄弟げんかは安全を確保しつつ、当事者の話を同じだけ聴く
– 絵本・ごっこ遊び・協同ボードゲームで順番や交代を楽しむ
– 大人が謝る・お礼を言う姿を見せる
根拠(制度・研究)
– 制度・指針の根拠
文部科学省「幼稚園教育要領」および解説では、領域「人間関係」において、他の子どもとかかわる中で自己を発揮しつつ相手を受け入れ、協同して活動することが重視されます。
また「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」には「協同性」「道徳性の芽生え」「社会生活との関わり」等が掲げられています。
厚生労働省「保育所保育指針」でも、ねらい・内容として「他児への思いやり」「社会的規範の理解」「自我と他者との調整」が明記されています。
内閣府「認定こども園教育・保育要領」も同様に、教育と保育の一体的提供の中で人間関係の形成と道徳性の芽生えを基本に位置づけています。
これらは、こども園が協調性と思いやりを育てることを制度上の目的としている明確な根拠です。
発達心理・教育学の研究
1) 社会的学習・共同性
Banduraの社会的学習理論は、モデリングと強化によって向社会的行動が学習されることを示しました。
こども園での保育者や年長児のモデルは強力です。
Vygotskyの社会文化的理論は、共同活動とスキャフォルディングが発達を促すことを示し、遊びの中の役割やルールが自己統制の源になると説明します。
2) 共感と向社会性
EisenbergやSpinradらのレビューは、幼児期の共感性が援助・分与・慰めなどの向社会的行動に結びつき、保育者の温かな応答性と感情の言語化支援がその発達を促すことを示しています。
Decetyらの神経科学的研究は、情動的共感と認知的共感が発達とともに統合されることを示し、経験による可塑性を示唆します。
Denhamの情動コンピテンス研究は、感情理解と自己調整が対人適応と学習の基盤であることを示しました。
3) 自己調整と協調
Blair & Raver等の研究は、実行機能や自己調整が社会的適応・協同行動を予測すること、予測可能なルーティンと肯定的行動支援がそれを高めることを示しています。
Tools of the Mindのような遊びベースの自己調整プログラムは、協同遊びの質を高める実証があります。
4) 仲間関係と道徳性の芽生え
Tomaselloは人間の「共同志向性(shared intentionality)」が協力・公平性・規範理解の基礎であり、共同課題と役割分担の経験がそれを引き出すと論じています。
Killenらの研究は、未就学児でも公平性や排除の是非に関する初歩的な道徳判断があり、対話的な場で洗練されることを報告しています。
5) SEL(社会情動的学習)の効果
就学前を含むSELプログラムのメタ分析(Durlakら)では、社会情動スキル・行動・学業に中程度の効果が報告され、系統だった感情教育・問題解決スキルの指導・肯定的気候づくりの有効性が示されています。
こども園の実践と親和性が高い知見です。
日本のガイドライン解説・調査
幼稚園教育要領解説では、「人と関わる中で自己を発揮し、相手を認め、協同する力」「道徳性の芽生え(よいこと・悪いことの判断、相手の立場に立つこと)」が具体事例とともに述べられています。
各自治体の研究紀要や保育実践事例集でも、異年齢保育が思いやり行動の頻度を高める、共同制作が交渉スキルを伸ばす、といった傾向が報告されています。
よくある誤解と留意点
– 協調性=我慢強く従う、ではない
自分の意見を持ち、相手とすり合わせる主体的な力です。
沈黙や迎合は協調性の高さを必ずしも意味しません。
思いやり=やさしい性格、ではない
状況判断やスキル(気づく・言葉にする・行動に移す)として教え、練習できる力です。
性格や気質に帰属しすぎないことが大切です。
「教える」だけでは育たない
日常の関係性と環境が土台。
単発の道徳授業より、日々の遊び・生活・モデル・ふりかえりの循環が効果的です。
まとめ
こども園で育つ協調性は、他者と目的を共有し調整して行動する力、思いやりは相手の気持ちを感じ取り適切に助ける向社会性です。
これらは、遊びを中心とする共同経験、安心できる大人との関係、異年齢や小集団での相互作用、感情の言語化や問題解決のコーチングといった保育の実践によって、毎日の生活の中で具体的に養われます。
制度的にも幼児教育の中核目標と位置づけられ、心理学・教育学の研究によってその育ち方と支援の有効性が裏づけられています。
こども園は、子どもが「自分も相手も大切にしながら一緒に生きる力」を身につける最適な実践の場だといえるでしょう。
これらの力は幼児期の発達と将来にどんな影響を与えるのか?
ご質問の「協調性」と「思いやり」は、幼児期(こども園・保育園・幼稚園期)における社会情緒的発達の中核です。
結論から言うと、これらは園生活の安定や遊びの質を高める即時的な効果にとどまらず、学力・進学、心身の健康、人間関係、就業、反社会的行動の抑制など、長期にわたる幅広い指標を予測する重要な土台となります。
以下、発達プロセス、園での育ち方、将来への影響、科学的根拠、そして保護者・保育者ができることを順に整理します。
協調性・思いやりとは何か
– 協調性 共同の目的に向けて他者と役割分担や意見調整をしながら行動する力。
順番待ち、ルールづくり、衝突の解決、集団活動での自己抑制・配慮などが含まれます。
– 思いやり(共感・向社会性) 他者の感情や立場を理解し、苦痛の軽減や喜びの共有に向けて自発的に助ける・譲る・励ますといった行動につながる心的能力です。
幼児期にこれらが育つ発達プロセス
– 1~2歳頃 自他の区別が進み、泣いている子にティッシュを差し出すなど初歩的な「助け行動」が現れます。
身近な大人のモデルに強く影響を受けます。
– 3歳頃 並行遊びから連合遊びへ。
簡単なターンテイキング(順番を守る)が可能になり、簡単なルール遊びが成立。
– 4~5歳頃 役割分担のあるごっこ遊び、協同作業(ブロックで街をつくる等)が活発化。
心の理論(他者が自分と異なる考え・知識を持つことの理解)が育ち、思いやりの質が深まります。
– 5~6歳頃 集団内での合意形成、衝突後の「やり直し(リペア)」、相手の視点に立った言い換えや妥協が増えます。
言語・実行機能(抑制・注意の切替・ワーキングメモリ)と相互に支え合います。
こども園が果たす独自の役割
– 安心安全な関係(アタッチメント基盤)と予測可能な生活の流れが、感情の自己調整を助けます。
– 自由遊びと小集団活動のバランスが、自然な協同と葛藤解決の機会を日常的に生みます。
– 保育者のモデリングとスキャフォルディング(例 感情の言語化、交渉の言い換え、折り合いの付け方の仲介)が、子ども同士の相互調整を促します。
– 異年齢交流や当番・役割活動(食事配膳、飼育栽培、行事準備)が、責任感と思いやりの「実践の場」になります。
– 観察に基づくフィードバックが、子どもに具体的な学びの手応えを与えます(行為の称賛ではなくプロセスの言語化)。
幼児期における近接的な効果(その場で見える効果)
– 感情の安定と自己調整の向上(泣き崩れの減少、待つ力の向上)
– 遊びの質の向上(役割遊びの持続時間が伸び、創造性が高まる)
– 言語能力の発達(交渉・説明・合意形成で語彙と表現が増える)
– 友人関係の満足度向上、いじめ・孤立の予防
– 学びに向かう態度(集中・粘り強さ・課題従事)の向上
将来への影響(学齢期~成人期)
– 学業と進学 幼児期の向社会性・協調性は、後の読解・算数の成績や学級適応を予測します。
学力そのものへの直接効果に加え、学習への関与・授業参加の質を通じて間接効果が生じます。
– 心理的健康 共感性と社会的スキルが高い子は、抑うつ・不安・攻撃性が低い傾向が報告されています。
適応的なストレス対処法(相談・協力)をとりやすいからです。
– 人間関係と市民性 友情の持続、チームワーク、リーダーシップ、地域への貢献などと関連します。
– 就業・所得・非行の抑制 幼児~小学校初期の社会情緒的スキルは、就業安定や逮捕歴の減少など成人期の広範な指標を予測することが示されています。
– 公衆衛生・社会的費用 早期の社会情緒的支援は、教育・福祉・司法コストの抑制と関連します(長期縦断研究や経済分析より)。
根拠となる研究・政策文書(代表例)
– Jones, Greenberg, & Crowley (2015, American Journal of Public Health) 幼稚園入学時の社会的コンピテンス(助ける、分かち合う、協力する等)が、25歳までの学歴、雇用、薬物使用、逮捕歴などを有意に予測。
社会的スキル1ポイントの差が成人アウトカムに意味のある差をもたらすことを示しました。
– Caprara et al. (2000, Child Development) 小学校時の向社会的行動が後の学業成績と同級生からの受容を予測。
攻撃性よりも向社会性が学業に正の寄与を示すことを報告。
– Eisenberg, Spinrad らの一連のレビュー(2006以降) 共感性・情動調整・向社会行動の発達メカニズムと長期的適応へのリンクを体系的に示す。
– Warneken & Tomasello (2006, Science) 1歳台後半の子どもに自発的な助け行動が見られることを示し、思いやりの萌芽が早期に現れる実験的証拠。
– Durlak et al. (2011, Child Development) メタ分析 社会情緒的学習(SEL)プログラムはK-12で社会情緒スキルの向上、問題行動の減少、学業成績の改善を平均0.27~0.57 SD程度もたらす。
幼児期プログラムでも一貫して正の効果が報告されています。
– 介入研究(PATHS, Second Step, Incredible Years, Tools of the Mind など) 感情理解・自己調整・対人スキルを養う園・学校プログラムが、行動問題の低減と学業・適応の向上を示す実証が多数。
– 長期介入の経済分析(Perry Preschool, Abecedarian, Chicago Child-Parent Centers; Heckmanら) 早期教育が非認知スキル(協調性、自制、勤勉さ)を高め、生涯所得や健康、非行の減少に波及。
費用対効果が高いことを示す。
– OECD “Skills for Social Progress”(2015) 協調性・共感などの社会情緒的スキルが教育・雇用・健康に影響する国際比較エビデンスを総括。
– 日本の指針 文部科学省「幼稚園教育要領」および厚生労働省「保育所保育指針」ならびに「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」では、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿として「協同性」「道徳性の芽生え」「言葉による伝え合い」等が明記され、協調や思いやりの育成が中核目標とされています。
なぜ将来に効くのか(メカニズム)
– 認知との相互作用 協調するには、相手の意図理解、注意の切替、抑制、作業記憶を使います。
これら実行機能は読解・算数の基礎でもあり、相乗効果が生じます。
– 学習機会の増大 クラスで指示を聞き、仲間と課題を進められる子は、教師からの支援が得やすく、学習時間のロスが減ります。
– ストレス緩衝 問題を言葉で解決できると対人ストレスが軽減し、心身の健康リスクが下がります。
– レピュテーション効果 協調的で思いやりのある振る舞いは、信頼を生み、良質なネットワーク形成を促進します(就学・就業で有利)。
こども園・家庭での実践例
– サークルタイムでの感情チェックイン(嬉しい・悲しい出来事の共有、感情語彙の拡充)
– 役割交替を伴う協同ゲーム(バトンリレー、パズルの共同完成、巨大ブロック建設)
– ごっこ遊びの拡張(設定や役割の交渉、困った役への手助けを促す導入)
– けんかの仲裁スクリプト(気持ちの言語化→相手の気持ちの推測→要求の明確化→解決案の共同生成→合意の確認→やり直しの儀式)
– 感謝・親切の見える化(親切カレンダー、ありがとうメッセージボード)
– 異年齢ペアリング(年長が年少を支えるお手伝い活動)
– 飼育・栽培や地域交流(生命尊重・思いやりの体験を日常化)
– 保育者・保護者のモデリング(謝れる大人、順番を守る大人、助け合う大人)
– 家庭では共同家事(配膳、洗濯物分け)で協同経験、読み聞かせで登場人物の気持ちを問いかける。
観察・評価とフィードバック
– 行動指標の例 順番を待てる、困っている子に気づける、頼みごとを言葉でできる、衝突後に関係を修復できる、集団のルール作りに参加できる。
– ツール例 SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire; 向社会性尺度あり)の日本版など、短時間でスクリーニング可能。
園では観察記録を定期的に振り返り、個別支援計画に反映。
注意点(やり過ぎと配慮)
– 「いい子」の強要は自律性を損ない、表面的順応に終わることがあります。
意見表明と交渉も協調性の一部として尊重することが重要です。
– 恥や同調圧力で抑える指導は逆効果になり得ます。
感情の承認と選択肢の提示で内発的動機づけを促してください。
– 神経多様性(ASD/ADHD/SLDなど)には、視覚的支援、明確なルール、役割の明文化、短いターン、成功体験の意図的構成など個別化が有効です。
– 文化差・気質差(おっとり/内向的)は弱点ではありません。
発言量よりも他者配慮の行動指標で多面的に評価します。
まとめ
こども園で育つ協調性・思いやりは、幼児の毎日の安心と豊かな遊びを支えると同時に、学業、心身の健康、対人関係、就業、社会参加といった生涯に広がる土台となります。
これは単なる徳育ではなく、認知や実行機能、言語、情動調整と密接に結びついた「学びのコアスキル」です。
保育環境の質と大人の関わり方(モデル・言語化・仲介・成功体験の設計)が鍵であり、早期からの一貫した支援は長期的に大きな便益をもたらします。
参考(主な根拠)
– Jones, D. E., Greenberg, M., & Crowley, M. (2015). Early Social-Emotional Functioning and Public Health. AJPH.
– Caprara, G. V., Barbaranelli, C., Pastorelli, C., Bandura, A., & Zimbardo, P. (2000). Prosocial foundations of children’s academic achievement. Child Development.
– Eisenberg, N., & Spinrad, T. L. (2006/2014). Prosocial behavior/emotion regulation reviews.
– Warneken, F., & Tomasello, M. (2006). Altruistic helping in human infants. Science.
– Durlak, J. A., et al. (2011). The impact of enhancing students’ social and emotional learning. Child Development.
– Heckman, J. J., et al.(Perry Preschool, Abecedarian, CPCに関する研究) 早期教育の長期効果と費用対効果。
– OECD (2015). Skills for Social Progress.
– 文部科学省「幼稚園教育要領(解説)」、厚生労働省「保育所保育指針」、内閣府「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿として協同性・思いやり等を位置づけ。
もし園やご家庭の具体的な状況(年齢構成、課題、活動例)を教えていただければ、より個別化した実践プランをご提案します。
日常の遊び・当番・異年齢交流はどのように育ちを促すのか?
ご質問の「協調性」と「思いやり(共感・向社会性)」は、こども園における生活全体、とりわけ日常の遊び・当番・異年齢交流の三つで相互に補い合いながら育ちます。
ポイントは、子ども同士が関わり合い、課題を共有し、役割や視点を行き来する経験が継続的に起こること、そして大人がその学びを言葉と環境で支えることです。
以下に、具体的な育ちのプロセスと実践の工夫、そして根拠をご説明します。
日常の遊びが促す育ち
– 協同的な見通しと役割分担
・ブロックや制作、運動遊びなどの協同的な遊びでは、「何をつくるか」「誰が何をするか」を話し合いで決めます。
ここで育つのは、順番を待つ、相手の意見を聞く、合意形成に向けて折り合う力(協調性)です。
・ごっこ遊びでは「お母さん役」「お店の人」などの役割を演じ分け、他者の視点で考える練習を重ねます。
これは思いやりの基盤となる「役割取得」「視点取得」を自然に促します。
ルールのある遊びと自己調整
・鬼ごっこ、椅子取りゲーム、カードゲームなどは、共通ルールの理解と遵守、勝ち負けの受け止め、感情の自己調整を伴います。
ルールを守る経験は「みんなで楽しむために自分を調整する」協調的態度を支えます。
共同注意と感情理解
・虫や自然物を一緒に観察したり、作品を見せ合ったりする「共同注意」の場面は、相手が何に注意しているかに自分の注意を合わせる練習です。
これにより相手の関心や気持ちを推し量る力が育ちます。
トラブル解決を学ぶ場
・おもちゃの取り合いなどの衝突は学びのチャンスです。
保育者が「事実の言語化→気持ちの可視化→解決案の共同探索」という手順で支援すると、子どもは自分と相手のニーズを両立させる方法を獲得し、思いやりと協調的な問題解決の両方が伸びます。
保育者の環境構成と関わり方
・人数に見合った素材量、役割カードや順番表など「見える化」、小グループでの活動設定は、衝突の予防と交渉の練習に有効です。
・言葉がけは結果よりプロセス重視。
「順番を待ってくれて助かったよ」「相手の気持ちを聞けたね」と、具体的な行動とその社会的影響をフィードバックすると内発的動機づけにつながります。
当番活動が促す育ち
– 具体例
・給食当番、配り物係、植物への水やり、飼育係、掃除当番、出欠確認など。
育ちのメカニズム
・社会的貢献感と責任感 自分の役割が集団を支えている実感が「みんなのために」という他者志向を育てます。
・視点取得と共感 配膳時に「苦手な子はどうかな」「こぼれないように持とう」と相手の状態を想像する機会が増え、思いやりが具体的行動に結びつきます。
・実行機能と自律性 段取り、時間管理、注意の切り替え、完了までやり切る経験が、協調行動に必要な自己調整力を底上げします。
・役割期待と規範意識 集団の一員としての役割を果たすことが、規範の内在化(決まりを自分ごととして守る)につながります。
実施の工夫
・ローテーションと選択の両立 公平に回す仕組みを基本に、関心や適性に応じて選べる日も用意。
自律性が満たされると prosocial な動機づけが高まります。
・ペア当番(異年齢や同年齢) 年長が手本を示し説明することで教える力とケアの姿勢が、年少には安心感と学ぶ姿勢が育ちます。
・見える化と見通し 当番表、手順カード、終わりのチェックリストで成功体験を積み重ねます。
・ふりかえり 終わったあとに短い対話「どんな工夫が役立った?」「誰が助けてくれた?」を持つと、経験が言語化され、次に生かせます。
注意点
・過度な責任や罰的運用は逆効果です。
失敗は学びと位置づけ、援助要請を肯定します。
・「協調性」を理由に自己主張を抑え込まない。
自他のニーズを共に大切にするアサーティブな対話を支えます。
異年齢交流が促す育ち
– 年長児の育ち
・モデリングとリーダーシップ ルールや安全の配慮を説明し、相手の理解度に合わせて関わる中で、思いやりを伴うリーダーシップが育ちます。
・教えることで学びが深化 手順を分かりやすく伝えるには相手の視点の理解が不可欠で、役割取得能力が高まります。
・ケアリングの喜び 手をつないで移動、困りごとの代弁など、ケアの実感が自己効力感と向社会性を強めます。
年少児の育ち
・憧れと模倣 年長の姿に触発され挑戦意欲が高まり、社会的規範や協同の作法を自然に身につけます。
・安心基地 困ったときに頼れる年長の存在が、集団活動への参加を後押しします。
具体的な活動例
・縦割りグループでのプロジェクト(制作・畑・行事準備)
・読み聞かせのペア、散歩や片付けのバディ制度
・異年齢ペア当番、異年齢の遊びコーナー
注意点
・年長に「世話役」を固定化しすぎると負担感が生まれます。
役割のローテーションと「助けてもらう経験」も年長に用意することが大切です。
・安全配慮と保育者の介在により、支配・従属の関係にならないよう対話を促します。
根拠(理論・研究・制度文書)
– 我が国の制度文書
・幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領はいずれも「遊びを通しての学び」「環境を通して行う教育」を位置づけ、「協同性」「思いやり」「自立心」などを幼児期の終わりまでに育ってほしい姿として掲げています。
日常の生活や当番、異年齢の関わりも重視され、生活全体での育ちが明記されています。
発達心理・教育学の理論
・社会文化的理論(Vygotsky) より有能な他者(大人・年長児)との協同活動で、支援(スキャフォルディング)により協調的問題解決が発達する。
・観察学習(Bandura) モデルの行動を観察・模倣することで向社会的行動が学習される。
異年齢交流は強力なモデリングの機会。
・役割取得・心の理論(Selman、Wellman ら) 4〜5歳頃に他者の信念や感情理解が伸び、ごっこ遊びや協同活動がそれを促進する。
・向社会性の発達(Eisenberg ら) 日常での援助・分配・慰めの反復経験が、共感に裏打ちされた向社会的傾向を高める。
・自己決定理論(Deci & Ryan) 自律性・有能感・関係性が満たされると、規範や役割が内在化され、当番等の行動が内発的に維持されやすい。
・実行機能と遊び(Diamond ら) ルールのある協同遊びは注意抑制・ワーキングメモリ・柔軟性を鍛え、協調行動の基盤となる。
実証的知見の例
・協同的ごっこ遊びやルールのある遊びが、対人的な自己調整・交渉スキル・社会的コンピテンスの向上と関連することが報告されています。
・ピア・チュータリングや異年齢ペア学習の研究では、教える側・学ぶ側双方で社会的スキルや学習意欲の向上が見られることが示されています。
・幼児は早期から自発的な助け・分かち合い行動を示し(Warneken & Tomasello ら)、大人の温かい支援的関わりがそれを強化することが知られています。
・日本の保育実践研究でも、縦割り保育や当番活動が責任感・思いやり・協同性の形成に資すること、ただし保育者の介在と環境構成が質を左右することが示唆されています。
すぐに活かせる実践のヒント
– 遊び
・小グループでの協同課題(大きな制作、コースづくり)を日常化。
・「役割カード」「順番マグネット」で見える化。
共有物は数を調整し、交渉の機会を意図的につくる。
・トラブル時の言葉がけ 事実の確認→気持ちの反映→双方のニーズの整理→代替案の提案→合意確認。
当番
・ローテーション表と選択デーを併用。
ペア制での相互支援を基本に。
・ふりかえりシールや写真掲示で貢献を可視化。
「誰にどう役立ったか」を言語化する。
異年齢交流
・週に1回の縦割り活動と、日常の「ペア読み・散歩バディ・片付けバディ」を併設。
・年長にも「助けてもらう側」になれる活動(難しい工作を年少が得意なことを教える等)を用意し、双方向性を担保。
保護者との連携
・連絡帳や掲示で、協調・思いやりの具体的エピソードを共有。
家庭でも「ありがとう」「助かった」のフィードバック文化を広げる。
・「協調=我慢」ではなく「自分も相手も大事にする」姿勢を伝える。
まとめ
– 日常の遊びは、役割やルール、感情調整と交渉の実地訓練として協調性を育て、他者の視点に立つ経験をごっこや共同注意を通じて思いやりへつなげます。
– 当番活動は、集団への貢献と責任の自覚を生み、相手の状態に気づき配慮する行動を日課として定着させます。
– 異年齢交流は、モデルと支援の往還の中で、教える・助ける喜び、憧れと挑戦を通じて、思いやりと協調性の両輪を強めます。
– これらを支えるのは、保育者による環境構成とプロセスに焦点を当てた言葉がけ、そしてふりかえりの時間です。
制度文書の理念と発達理論・研究は、この実践の妥当性を裏づけています。
こども園の強みは「生活と遊びの一体化」にあります。
毎日の小さな関わりを丁寧につなぎ、子どもが「自分も相手も大切にできた」という成功体験を重ねられるよう設計することが、協調性と思いやりの確かな土台になります。
ケンカやトラブルを学びに変えるにはどう関わればよいのか?
こども園の毎日は、友だちとの関わりが濃密です。
おもちゃの取り合い、順番争い、「入れて」「ダメ」などのやり取りは、避けるべきものではなく、協調性と「思いやり(共感)」を育てる最高の学びの素材です。
ポイントは、大人が「止める人」ではなく「学びの伴走者」になること。
以下に、現場で使える関わり方と、その根拠を詳しくまとめます。
発達理解をベースにする
– 1~2歳 自己主張が強く、感情の津波に飲まれやすい時期。
並行遊びが中心で「共有」より「所有」が自然。
言葉の代わりに手が出やすい。
– 3~4歳 役割遊びやルール意識が芽生え、順番や交渉が少しずつ可能に。
相手の視点理解は発展途上で、誤解やぶつかりが増える。
– 5歳 ルールや合意形成を見通して動ける子が増える。
仲間関係の「取り込み・排除」も起こりやすく、意図的な関与が必要。
発達に沿った期待値と支援の量(スキャフォルディング)を調整することで、無理のない学びに変えられます。
大切にしたい基本原則
– 安全の最優先(体を離す・落ち着く場を確保)
– 非難よりプロセス重視(誰が悪いかより、何が起き、どう直せるか)
– 感情は「正当」、行動は「調整」できるという立場
– 子ども主体の解決を支える(大人が答えを与えすぎない)
– 修復と関係の回復を大切にする(形式的な謝罪の強要は避ける)
トラブルを学びに変える6ステップ
1) ストップと安全確保
– 落ち着いた声で「ストップ」「今は手をお休み」など短い言葉。
– 体をやさしく離し、事故を防ぐ。
2) 共感と情動の鎮静(コ・レギュレーション)
– 「びっくりしたね」「それを使いたかったんだね」と感情ラベリング。
– 深呼吸、握る・開く、数える、感覚ツール(柔らかいボールなど)の活用。
3) 事実の可視化と公平な聴き取り
– 片方ずつ短く。
「あなたの番です」「今は聞く番だよ」の合図で順番に話す。
– 大人は中立に要約。
「Aくんは○○と言ってる。
Bさんは△△と言ってるね」
4) 問題の定義を共有
– 「二人とも同じ車で遊びたい、が問題だね」のように、行動ではなくニーズに焦点。
5) 解決案をブレインストーミング
– 「他には?」「両方がOKな方法は?」と選択肢を広げる。
– 例 順番、タイマー、交換、共同使用、代替案、後で借りる約束など。
– 大人は2~3案を補助提示し、子どもに選ばせる。
6) 合意・実行・ふりかえり・修復
– 合意を短い言葉とジェスチャーで確認。
– 終了後に短いふりかえり。
「どうだった?
次はどうする?」
– 壊れた積み木を一緒に直す、落ちた物を拾うなど「修復的行為」で関係回復。
具体的な声かけ例
– 取り合いの場面
大人 「ストップ。
手はお休み。
…うん、使いたかったね(感情命名)。
今はAくんが持ってる。
Bさんはどうしたい?」
B 「使いたい」
大人 「問題は『同じ車を二人が使いたい』だね。
どうしたらいい?」
A 「一緒に?」
B 「順番」
大人 「タイマー3分で交代はどう?」
A/B 「いいよ」
大人 「じゃあスタート。
交代の時は“貸してね”って言おう」
排除「入れて/ダメ」
大人 「“入れて”って言ってくれたね。
今はどんな遊び?」
子ども 「病院ごっこ」
大人 「役が足りるかな?
新しい役を考える方法もあるよ」
子ども 「救急車役やる?」
大人 「いいアイデア。
みんなOK?」
子ども 「OK」
(合意形成が難しい時は、近くに並行できる類似遊びを提案し、後で合流の機会をつくる)
叩いた・噛んだ直後
大人 「手(口)は止めるよ。
怖かったね(被害児)/怒ってたね(加害児)。
今は安全にするよ」
落ち着いてから
大人 「あなたの体はあなたのもの。
叩かれるのは嫌だね(被害児の権利の確認)。
次はどう伝えようか?
“やめて”って言ってみよう」
加害児へ
大人 「“どいて”って言いたかったの?
次は足でトントン、ことばで“どいて”にしよう。
今は壊れた積み木を一緒に直そう(修復)。
」
環境としくみで予防と学びを後押し
– 視覚支援 感情カード、解決ステップのポスター、順番カード、タイマー。
– 場のデザイン 人気玩具の複数配置、共同遊びしやすい大型素材、混雑回避のコーナー分け。
– ピーステーブル/なかなおり椅子 合図、順番、ルールを簡潔に。
年長は簡単な「合意カード」を書くのも有効。
– 朝の会・サークルタイム 役割交代ゲーム、協力ゲーム、気持ちのシェア、ロールプレイ。
– 絵本・紙芝居 感情・友情を扱う作品で語彙と視点取得を育てる。
– 大人のモデリング 保育者同士のやり取りでIメッセージと修復を見せる。
– ルールの共同作り 子どもと一緒に「安心の約束」を決め、絵で掲示。
– 個別配慮 言語や発達特性に合わせ、短い指示・具体的視覚手がかり・社会的ストーリー・感覚調整の休憩を用意。
「謝らせる」より「修復する」
形だけの「ごめんなさい」を急がず、相手の気持ちと影響に気づき、行動で関係を直す経験(直す、貸す、手伝う、カードを書く等)を支える方が、内的な共感と責任感につながります。
心からの謝罪は、その気持ちが芽生えた時に促すのが効果的です。
保護者との連携
– 園で使う感情語や解決ステップを家庭にも共有し、同じ言葉で支える。
– 事実・学び・次の手立てを中心に伝え、誰かを悪者にしない報告を徹底。
– 家庭でできる練習(気持ち言葉、順番ゲーム、ロールプレイ)を提案。
観察・ふりかえりと評価
– 記録は「きっかけ・行動・大人の支援・子の選んだ解決・結果」で簡潔に。
– 月次で「衝突の回数」より「自発的な言語による解決」「交代・合意の成立」「修復の提案」などの増加に注目。
– 子どもの声を集める。
「困った時どうする?」のアイデア掲示。
根拠(理論・研究・指針)
– 社会情動的学習(SEL)の効果 系統的なSELは問題行動の減少と協調性の向上、学業の向上に結びつくことがメタ分析で示されています(Durlakら, 2011; Taylorら, 2017)。
就学前向けプログラム(PATHS, I Can Problem Solve等)は攻撃性の低下と問題解決スキルの向上を報告(Greenberg & Kusché, 1993; Shure, 1992)。
– 感情コーチングとコ・レギュレーション 大人が感情を受容・命名し、落ち着きを共同で作る関わりは自己調整と対人スキルを伸ばす(Gottman, 1996; Murrayら, 2015)。
– 修復的実践(Restorative Practices) 非難ではなく、影響の理解と関係修復に焦点を当てるアプローチは、園や学校での関係性と行動の改善に効果(Morrison, 2005)。
幼児期には「直す・手伝う・合意を作る」など具体行為で実装可能。
– 実行機能と仲間関係 ルールのある協力遊びや役割交代は実行機能を高め、衝突の自己管理に資する(Diamondら, 2007; Tools of the Mind研究)。
– 日本の指針 幼保連携型認定こども園教育・保育要領、幼稚園教育要領、保育所保育指針は「人とかかわる力」「感じたことや考えたことを表現する」「道徳性・規範意識の芽生え」「思いやり」を明記し、遊びや生活の中でのトラブルも含めた協同的な学びを推奨しています(文部科学省・厚生労働省, 2017)。
よくある難場面へのヒント
– 人気玩具の集中 数を増やすだけでなく「貸し借りシステム」「予約カード」「タイマー」を導入。
– 「強い子が常に勝つ」構図 大人が意識的に弱い立場の子の声を可視化し、代弁しながら交渉の土俵に乗せる。
– 常同行動や感覚過敏が関与 環境刺激(音・光・匂い)を整え、予告と視覚手順で見通しを提供。
必要に応じて短い休憩を正当化する合図カードを使用。
まとめ
– 衝突は「協調性」と「思いやり」を鍛える実践の場。
大人の一貫したコ・レギュレーション、感情と言葉の橋渡し、公平な聴き取り、子ども主体の合意形成、修復に基づく締めくくりが、日々の小さなトラブルを大きな学びに変えます。
– 環境・しくみ・家庭連携・観察の循環によって、子どもたちは「困ったとき、どうすれば関係を壊さずに自分を大切にできるか」を体で覚えていきます。
必要であれば、園の状況(年齢構成、職員配置、最近のトラブルの傾向)を伺い、具体的な導入計画やポスター・カードの文言例まで一緒に作成します。
家庭と園が連携して力を伸ばすには何ができるのか?
こども園で育つ「協調性」と「思いやり」は、日々の遊びや生活の中で繰り返し経験する人との関わりから少しずつ根づきます。
園だけで完結する力ではなく、家庭と連動して初めて安定し、持続的に伸びる力です。
以下では、家庭と園がどう連携すればよいかを具体策と根拠に分けて、実践的にまとめます。
連携の基本原則
– 共通目標を明確にする
「友だちと気持ちを伝え合う」「順番を守る」「困っている人に気づく」といった具体的な到達イメージを、園と家庭で言葉にして共有します。
抽象的な「優しく」だけでは行動に落ちにくいため、行動指標を揃えることが鍵です。
– 一貫性と予測可能性
同じ場面で同じ期待・同じ言葉がけが返ると、子どもは安心して社会的行動を試せます。
園と家庭でルールや合図(例 「貸して」「どうぞ」「順番ね」などのキーワード)を揃えます。
– 双方向コミュニケーション
送迎時や連絡帳、写真付きポートフォリオで「今日のうまくいった関わり」「困った場面」を短く共有し、家庭での様子も返してもらいます。
園→家庭の一方通行ではなく、家庭の観察が園の援助に直結する循環をつくります。
– 子ども中心・強みベース
できていない点の矯正より、「できた瞬間」を具体語で強化します(例 「順番を待てたね」「相手の気持ちを聞こうとしたね」)。
家庭と園が一緒にできる具体策
– 生活ルーティンの共同設計
朝の支度、帰園後の片付け、就寝前の読み聞かせなどを「協力」と「待つ」練習の場にします。
園では当番活動や給食の配膳・片付けで役割分担を経験し、家庭でも「今日のお手伝い」を小さく設定。
両者で「役割をやり遂げる心地よさ」を共通の言葉で承認します。
– 感情の言語化(エモーション・コーチング)
園ではトラブル時に「悲しかったんだね」「怒ってるね」と気持ちを言葉に乗せ、相手の気持ちも推測。
家庭も同じ順序で介入します。
手順例 気持ちの名づけ→相手の気持ちへの橋渡し→解決策の共同探索→うまくいった点の承認
言葉がけ例 「今、貸したくなかったんだね。
Aくんはどんな気持ちかな?
順番を決めるとどうかな」
– 協同遊びの環境づくり
園では協力しないと達成できない遊び(大きな積み木の建設、リレー、劇遊び)を計画。
家庭でも協同ボードゲームや料理(おにぎりを一緒に作る)など、役割分担と合意形成を伴う活動を設定。
– 絵本・物語で視点取得
園・家庭で同じ絵本を読んで「このとき主人公はどんな気持ち?」と問う。
園が月の推薦絵本を通知し、家庭の読み聞かせで同じ問いを繰り返すと、共感の言語が揃います。
– 小さな合意形成の練習
園では「遊具の順番」「ルールづくり」を子ども会議で。
家庭でも「休日の過ごし方会議」を短時間で実施し、多数決や交代制を経験させます。
– 衝突時の修復的対話
「誰が悪いか」より「どうしたら関係を修復できるか」に焦点を当てます。
園で使う4ステップを家庭と共有すると効果的です。
1) 事実の確認 2) 気持ちの共有 3) 影響に気づく 4) 次の約束(握手・言葉・行動)
– 多様性に触れる経験
年齢や発達の違い、多文化、障害のある友だちとの協働を日常化。
家庭でも地域の交流行事に参加し、「違いがあるからこそ助け合える」視点を養います。
– 送迎時のミニフィードバック
降園時に30秒で「今日のよかった関わり」を具体的に伝える(例 「泣いていた友だちにティッシュを持っていった」)。
家庭はその夜に同じ行動を称賛し、翌朝の目標に接続。
– ICT連絡帳・写真ポートフォリオ
「関わりの瞬間」を写真に短文で添えて共有。
家庭は似た場面を撮って返信し、園にフィードバック。
可視化が学習を促進します。
– 移行期の手厚い支援
入園・進級時は不安が高まりトラブルが増えがち。
園と家庭で「朝の別れの儀式」「再会の儀式」を決め、短く一貫して実行します。
家庭で今日からできる言葉がけ・行動例
– 感情→行動→承認の順でフィードバック
「貸したくない気持ちが言えたね(感情)」「順番を提案できたね(行動)」「だからみんなが笑顔になったね(承認)」。
– Iメッセージ
「ママは、押すのを見ると心配になるよ。
どうやったら伝えられるかな?」
– 3つの基本ルールを明確に(叩かない・物を投げない・危険な場所に走らない)。
ルールは少なく短く、合図を共通化。
– 1日1回の「思いやり探し」
寝る前に「今日、誰かに優しくした?
誰かに助けてもらった?」を対話。
園の体制としての連携づくり
– 年間連携計画
学期ごとに「協調性・思いやり」の重点テーマを設定(例 1学期=順番と待つ、2学期=協同プロジェクト、3学期=年下への配慮)。
保護者通信にねらい・家庭での協力ポイントを明記。
– 保護者参加型ワークショップ
感情の言語化、けんかの仲裁、読書での対話の仕方を体験する90分講座を年2回。
– 観察と共有の共通ツール
短いチェックリスト(例 自分の気持ちを言葉で表せた、相手の気持ちを推測した、順番を待てた)を月1回、園と家庭で記録し合い、変化を見える化。
– 教職員の継続研修
応答的保育、修復的プラクティス、インクルーシブ支援などの研修を計画的に。
小さなケースの流れ(例 おもちゃの取り合い)
– 園 気持ちの名づけ→交渉の練習→修復→次の約束。
家庭 同じ枠組みで振り返り。
「今日、園で貸してって言えたんだって?
次はどんな言い方が良さそう?」と強化。
– 翌日 保育者が成功の瞬間を捉え、即時に具体称賛。
「相手の目を見て順番を決められたね」。
よくあるつまずきと対策
– 一貫しない対応
対策 家庭内でも大人同士で合図と言葉を統一。
園は掲示物や配布でフレーズを明文化。
– 過度な大人の介入
対策 まず当事者同士のやり取りを見守り、言葉の手がかりだけを提供。
子どもが解決した実感を持てるようにする。
– 「優しくしなさい」の押しつけで自己犠牲化
対策 自分の気持ちを守ることと、相手を思いやることの両立を教える。
「今は貸せないと言ってもいい。
代わりの提案をしてみよう」。
期待できる効果と評価
– 短期 トラブル時の言語化が増え、待つ・交代が安定。
泣き・かみつき・押しの頻度が下がる。
– 中期 友だちの視点取得、協同遊びの持続時間が延びる。
年下への援助行動が自発的に増える。
– 評価方法 月次の観察記録、簡単な保護者アンケート、作品や写真によるポートフォリオで社会的行動の証拠を蓄積。
根拠(エビデンス)
– 我が国の指針
幼保連携型認定こども園教育・保育要領(平成29年告示)では、五領域の「人間関係」で、人と関わる力、思いやり、協同の育成が明記されています。
園の生活全体を通じて社会性を育むこと、家庭との連携が不可欠であることが示されています。
– 生態学的発達理論
ブロンフェンブレンナーの生態学的システム論は、子どもの発達が家庭と園(ミクロシステム)の相互作用とその連携(メゾシステム)の質に大きく左右されると説明します。
家と園の一貫性が高いほど行動は安定します。
– 社会情動的学習(SEL)の効果
学校・幼児期のSELプログラムに関するメタ分析では、協調性や共感を含む社会情動スキルが有意に向上し、問題行動が減少することが示されています(Durlak et al., 2011, Child Development)。
親と教師の両方が関与するモデルで効果が大きい傾向があります。
– 早期の社会性が将来に与える影響
幼児期の社会的コンピテンスは、思春期・成人期の学業、就業、健康と関連することが示されています(Jones, Greenberg, & Crowley, 2015, American Journal of Public Health)。
協調性・思いやりの土台づくりは長期の適応に寄与します。
– 情動コーチングと共感
幼児の感情の言語化を支える大人の関わりが、共感性や対人調整の発達を促すことは多くの研究で支持されています(Denham, 2006 など)。
トラブル時の修復的対話は攻撃行動の低減と関係修復力の向上に効果があります。
– 保育の質と社会性
質の高いECEC(幼児教育・保育)は、協調行動や自己抑制の改善に結びつくことが国際比較で報告されています(OECD「Starting Strong」シリーズ)。
また、親参加型プログラム(例 Incredible Years, PATHSなど)では、家庭との連携が効果の持続に重要であることが示されています。
– 我が国の研究動向
国内の園実践でも、当番活動やプロジェクト型保育、異年齢交流が協力・配慮行動の頻度を高めることが報告されています。
保護者との目標共有とフィードバックが行動の定着を支える点が共通しています。
連携を前に進めるための小さなステップ
– 今週から 園は降園時に「今日の協力・思いやりの一言メモ」を渡す。
家庭は就寝前にそれを話題に称賛。
– 今月から 園と家庭で同じ絵本を1冊読み、同じ問いかけを実践。
– 今学期から 園は子ども会議の定例化、家庭は「休日の家族会議」を月1回実施。
– 通年 園はポートフォリオで社会的成長の写真・コメントを蓄積し、三者で振り返る。
まとめ
協調性と思いやりは、園での体験と家庭での体験が響き合うことで強く、しなやかに育ちます。
共通の目標設定、一貫した言葉がけ、成功体験の可視化、衝突の修復を通じて、子どもは「相手も自分も大切にする」関わりを身につけます。
園と家庭が小さな実践を合わせて積み重ねることこそ、最も確かな近道です。
【要約】
多様性を尊重するインクルーシブな配慮では、発達特性や言語背景に応じて、視覚支援や段階的な指示、理解しやすい環境、ピア・バディを用意し、誰もが参加できる活動を設計する。違いを価値として共有し、安心安全の中で協調性と思いやりを育む。絵カードや写真、ジェスチャーで言語アクセスを保障し、選択肢提示やペース調整、個別の支援計画で壁を下げる。偏見や排除を予防するクラス文化づくりも重視する。